「桃栗三年柿八年」の後は 「柚子は九年で花が咲く」と続くのだそうです
葉室麟は 長く記者生活を送り50歳から執筆活動に専念した遅咲きの作家 彼なりの思いを「柚子は九年で」という言葉に託したのだと思います
「中年以降に小説を書く仕事に就いた人間には 時間に対する特別な思いがある いま切実に思う 時とはこれ程限られたものものなのか」歴史を題材にした小説を書く意味を 彼は「十~二十万年前 アフリカに生まれた命が聖火リレーのように引き継がれて今ここに居たり 私がある 点滅を途切れさせることなく現在へとつないできた そのことを想うといのちの尊さについてさほどの説明はいらない なぜ人を殺してはならないのかという命題の答えも直ぐに出る 吹き消すにはあまりに惜しい」「人生が実を結ぶというのは 六十歳を過ぎてからではないか」
葉室さんは 5度目の候補となり「蜩の記」で 直木賞を受賞します
此の随筆の中で 藤沢周平が彼と同じように記者生活を送っていることをあげ 彼が藤沢作品に強い共感を持っていたことを書いています
偶然にも此の随筆を読む直前に読んでいたのが 藤沢周平の「風の果て」 その小説の解説が此の随筆に取り上げられていることに驚きながら読了しました
お勧めの一冊です