後藤田正晴

特に理由がある訳ではありませんが　私の読書領域から遠ざけていた方の中に　保阪正康氏と後藤田正晴氏が居ます

昭和史を学ぶ上で　保阪氏の作品を避けては通れません　特に東條英機については保阪氏以上に東條を記した方は見当たりません

太平洋戦争開戦から敗戦への歴史を舵取りした人の一人は　間違いなく東條であり　個人的な感情としては保阪氏も決して好感を持っていないことが文章から読み取れました　保阪氏は綿密な資料調査と事前の綿密な面談準備を経て　膨大な質問票（ある意味では保阪氏の期待する面談者の回答を胸に秘めて）に基づき膨大なインタヴューを積み重ねて書き上げます　もっとも出来上がった作品にはご本人の答えはそれ程組み入れられません　何となく主人公と読者の間に分厚い壁を作り　彼の視点のみから

文章を書きあげて来ます　つまり主人公の生の感情がオブラートに包まれているようで　イラつきが残ります

もう一人の後藤田正晴は　その言葉使いにも官僚的横柄さが滲み出ているようで好感は持てませんでした　登場人物と著者がともに私にとっては近寄りたくない部類の二人だったので　この本にたどり着くのに３０年近い月日が必要でした

旧内務省官僚は非常に優秀であったことは事実ですが　独善的な印象は拭えません　慇懃無礼よりは良いのでしょうが　このタイプの人を上司に持ちたいとは思いません

旧制水戸高校から東京大学法学部法律学科を経て政治学科卒　昭和３年に徴兵　二等兵から経験　第一線に出ることはなく　終戦時は台湾軍司令部主計大尉（ポツダム進級）　自治省事務次官が見えていたにもかかわらず　警察庁長官を選びます

政治家としては　徳島から立候補　一度は落選二度目で当選　三木武夫と同じ選挙区　派閥は田中派　中曽根内閣で官房長官

官僚主導から政治主導（内閣主導）への過渡期に　行政改革　政治改革に辣腕を振るったことは間違いありません　官房長官が首相を操っているような印象を与えた最初の官房長官　あだ名は「カミソリ」　タカ派と云われたりハト派と云われたり　其の立ち位置が判りにくい人ではありました

陸軍軍人として敗戦を経験した後藤田は　二度とあんな馬鹿々々しい戦争などしてはいけないとの思いを強く持たれたようです

戦後　吉田首相の下で　自衛隊の前身である警察予備隊　保安隊創設を担当した後藤田は　憲法第九条で戦争放棄をした日本は　自国内での自営にのみ戦闘力を行使出来るのが自衛隊であり　海外派兵　先制攻撃をしてはならない　少なくとも戦争当時者であった自分達が生存している間は専守防衛に徹すべきとの信念を最後まで崩さなかった　ということが　今回理解出来ました

少し後藤田の足跡を勉強してみたいと思い始めています