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ラピスラズリブルー

旅愁

志賀直哉は「小説の神様」 対して横光利一は「文学の神様」
当初同人雑誌だった文藝春秋第二号から菊池寛に誘われ 川端康成とともに編集同人に加わっています

旅愁_d0338347_11184770.jpg
この「旅愁」は 学生時代に読んだ記憶があります 西洋と東洋との文明対立を題材にした長編小説です
2016年再刊のちくま文庫も既に絶版となっており 中古でしか手に入りません
主人公矢代耕一郎と対立する久慈(名前は書かれていません)のモデルは 上巻の表紙にある岡本太郎 

横光は ベルリンオリンピックと欧州訪問記事を依頼され 訪欧します
此のときの経験を取り入れた小説ですが 永井荷風の墨東奇譚と競うように連載され 墨東奇譚の終了と共に筆を折り 未完となります
戦後 GHQの検閲が入り 内容の変更を命じられた内容の対比が巻末に示されます 米国批判が削られていますが 書き直すくらいなら筆を折ったほうが良かったのではと思ったりもしました

西洋思想と日本人の在り方を 自らの体験をもとに書き綴っています

風景の描写 旅先での旅情 恋愛に惑う心理描写 会話や情景のもたらす比喩 横光自身の膨大な知識 何れも感性が溢れ とても難解です 

登場人物に生活感が無いので 何か違和感を感じます

主人公は 叔父の経営する建築会社整理部勤務という設定ですが 長期休職をしたり

殆ど勤務はしていないのに給料は普通に貰っている 少し現実離れしています

横光自身はスポンサー付きの取材旅行ですから致し方ないのかもしれません

しかし 芸術家を志す若者が数多く当時のパリには屯していたはずです

西洋美術に憧憬をもち 自分の芸術を模索し藻掻き苦しんでいたのではないか

日本文化よりも西洋文化が上位にあるような錯覚におぼれ 無理やり自分を西洋文化の信奉者たらんと振る舞って見せることを自己欺瞞と感じていたのではないでしょうか

幾ら西洋文化を称賛しても 自らの心を騙し切ることが出来ないもどかしさ

小澤征爾が 西洋楽曲を東洋人が幾ら弾いても 西洋人を超えることが出来ないと話していたことを想い出します


時代が違うからかもしれませんが 進行が非常に遅く 主人公の恋愛から結婚が進むような進まないような そしていつの間にか婚約している 実にもどかしくなってきます

背景描写 情景描写 心理描写 いずれも「文学の神様」と云われただけに修辞語が多く殆ど情景が心に浮かびません

読んでいてふと気づいたのが 茶道と能と落語 極端に装飾を省き 演技力(話術)で観客に情景を思い浮かばせる 日本文化の極みが其処にはあることに気付かされました

横光は 寧ろその逆をこの小説で試みているのでしょうか 正直言って最後まで読み続けるのは苦痛でした

作家に惚れると全作品を読みふける癖がありますが この作家は食傷気味です



by toshi-ohyama | 2020-05-06 06:56 | 幕張図書館 | Comments(0)
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