ジョセフ・グルーの昭和史

既に絶版状態で　苦労して中古本を取り寄せました

歴史街道という月刊雑誌があり　１０年前に連載された時に最初の数回分を読みました　

今回　吉田茂繋がりで　中古本を取り寄せました　既に絶版です

グルーについての書籍は少ないと思います　本人の在日中の日記も刊行されているそうですが

「太平洋戦争前夜の真実がいま明かされる」と鉢巻きに書かれていますが　この本によって明らかにされた歴史秘話は殆ど見当たりません

本人の日記だけでなく　著者の長い期間をかけての研究成果も盛り込まれているようですが　グルーの考えよりも著者のものの見方に左右されているような印象を持ちました　我々の中に　グルーに対する見方が定まらないことも事実です　外交官には　何か底知れぬ不気味さがあり　中々本質が見極められません

寧ろ　読みながら　こんなことを考えました

人口急増による日本の大陸進出政策の先に　満蒙問題が横たわっている

米国の門戸開放政策は　西部開拓時代を終えたアメリカ合衆国がアジア大陸へ後発組として東アジアに市場開拓を求めるために掲げた方針であり　満蒙に市場開拓を模索する日本と真っ向から対立する

満蒙は　ツングース系女真族（金）のヌルハチが後金を創立　後に支那に進出して明を倒し清を建国する　昭和初期の満蒙に在住する漢族は人口の一割程度　国境も定かではない荒れ地であった

昭和７年関東軍が満州帝国を建国　張学良等革命で支那を追われた満州族が戻っては来るが　中国の支配の及ばぬ無国籍地域であった

日露戦争は　ロシアの南下政策を自力では食い止められない英国が日本をロシアに対抗させようとした　謂わば代理戦争と位置付けられる

米国セオドア・ローズヴェルト大統領が仲介に乗り出したのは　日本の奮戦をみて　これ以上日本が強大になることに歯止めをかけることを目論んでもいた

ポーツマス講和会議後　日本がロシアから譲渡された南満州鉄道経営権に目を付け鉄道王ハリマンから共同経営を持ち掛けさせ　米国も満州への進出を目論んだ　桂内閣は　此の共同管理案を閣議決定で承認し仮契約を成立させる

講和会議から帰国した小村外相は　米国資本が満州に入ることを嫌い此の仮契約を破棄させる

岸信介は　日産コンツエルンの鮎川義介に日産本社の満州移転（満州重工業）を懇請し　鮎川もアメリカ資本の導入を進めようとする

この時期に起きたパナイ号事件により　ローズヴェルト大統領側近が米国資本の参入に反対し計画はとん挫する

グルー大使の訪日は満州国建国の４か月後であり　当時の米国の立ち位置は「満州国は承認しないが黙認する」という状況であり　米国資本の参入計画により「満州国を承認しても良い」という雰囲気になりつつあった　しかしながら　パナイ号事件により風向きが変わってしまった

関東軍は　張学良軍隊の拠点であった長城の南側に位置する熱河省制圧に乗り出すが　熱河省はアヘン栽培のメッカであり　アヘン商売の独占を狙ったものでもあったとされる

グルーは　スティムソン国務長官の対日経済制裁　スタンレー・ホーンベック極東部長の対日強硬策が「日本の軍部過激派　右翼勢力を刺激することになり　その結果生じる危険性による合衆国の国益損失は計り知れず」と国務省に何度も警告を重ねていた

グルーは　アメリカは日本との戦争を賭して迄　中国に守るべき権益を持っていないと判断していた