火は我が胸中に在り

とても重く　何度も挫折しかかった本をご紹介します

澤地久枝さんの第六作にあたります

澤地さんは五味川純平氏の助手として２．２６事件の資料整理をしているときに作家を志します

「妻たちの２．２６事件」が　其のデビュー作ですが「滄海よ眠れ」でミッドウェー海戦で戦死した全兵士の名前を掘り起こすなど　其の作家活動は鬼気迫るものがあります

本作は　竹橋事件を追います　竹橋事件は自殺１名　銃殺５５名　有罪３３１名　合計３８７名を数えますが　反乱の理由　首魁も明確でなく　陰謀説も否定出来ません

山縣有朋　前島密の密謀説もささやかれます

事件当日午後三時頃　暴発の密告を受け　内務少輔前島密は　伊藤内務卿　参謀長西郷従道　山縣有朋　大隈重信に知らせに走りますが　何れも不在

近衛砲兵大隊長岡本柳之助も外出中　関係者が揃って不在な処に何か陰謀のにおいを感じます

明治１１年８月２３日の暴発は　官憲の知るところとなり　近衛砲兵大隊では所有の大砲が発砲出来ぬように「事前に」砲身に釘打ちをしたり砲弾を撤去したりしています

近衛砲兵大隊兵士が中心となり　東京鎮台予備砲隊　近衛歩兵連隊にも同調者が出ます

関係資料は殆ど残されておらず　唯一の資料は陸軍裁判所に提出された口述書のみ　事の顛末は闇に葬られています

近衛砲兵大隊長　岡本柳之助は　責任者として奪官されますが　後に閔妃事件の時に朝鮮国軍部兼宮内府顧問官として登場してきます

死刑執行官は会津出身山川浩中佐

この事件と並行して　山縣主導のもとに軍人勅諭が起草され　参謀本部が設立されます

司馬遼太郎は　日露戦争後の日本の迷走を説きますが　明治２３年第一次山縣内閣が発足し第一回帝国議会で　主権線利益線論を発表し　日本は後発の帝国主義侵略戦争に踏み出していきます

吉田松陰を敬愛した山縣は「草莽崛起」論を信奉して倒幕運動に驀進します　其の山縣が西南戦争後の処遇に不満を持つ兵卒たちの反乱をどうとらえたのか　興味が尽きません