金丸信のめざした日朝国交正常化

日本と北朝鮮との関係は　一向に改善の兆しも見えません

数多くの事件が起きていますが　良いことは一つもないと云っても過言でないほど　混迷を続けています

我々が得られる情報は限られており　どうも実態が良く判りません

１９９０年に金丸訪朝団団長として北朝鮮に渡り　金日成主席と二人だけで日本語で会談をしており　これを機に　日朝国交正常化会議が開催されています

８回の会議を行うも結局は破局に至ります

本書は　金丸信の秘書であった御子息信吾氏が保管していた資料を三浦洋子氏が要約したものです

三浦洋子氏は　千葉経済大学教授　閔妃事件の首謀者三浦梧楼陸軍中将のお孫さんと結婚され　金丸信吾氏の高校の後輩という関係から　本作の発刊に至ります

１９８３年１１月　富士山丸事件が起こります

北朝鮮南浦港から　北朝鮮産の活ハマグリを「桑名のやきハマグリ」用に輸送していましたが　対馬洋上で密航者を発見します

密航者は一旦門司海上保安部に引き渡しますが　当時の出入国管理法には密航者は出国元に送り返す義務がありました

密航者閔洪九が政治亡命したため　富士山丸は密航者抜きで北朝鮮に戻り　乗務員が密航幇助と継続的スパイ行為容疑で逮捕　紅粉船長と栗浦機関長は教化労働１５年の実刑判決を受けます

１９８７年には大韓航空事件が起こり　日本は北朝鮮に制裁措置を実施　乗務員救出の道が閉ざされます

国交のない北朝鮮と日本のパイプは　１９６０年代は共産党と日朝教会　１９７０年代は社会党が僅かに繋いでおり　

１９８９年間まで１１回に亘って社会党が訪朝団を十一回ほど北朝鮮に送り込んでいます

１９８９年　竹下首相　安倍幹事長が北朝鮮問題打開策として　自民党　社会党　外務省で秘密裡に勉強会を立ち上げています

１９９１年　病気で倒れた武村正義に代わり金丸信が勉強会を託されます

１９９０年の先遣団（石井一団長）と　北朝鮮側金容淳（キムヨンスン）朝鮮労働党書記の間で下交渉が始まり　金丸訪朝時に富士山丸事件乗務員２名の釈放が決まります

１９９０年９月２４日　自民党代表団（金丸信団長）　社会党代表団（田辺誠一団長）　総勢８９名が平壌に向かいます

代表団は　日朝国交正常化交渉開始の提案を受けます

金日成からの突然の要請により　代表団は金丸信だけを残して帰国するよう指示があり　金丸は５時間ほど日本語で話し合いました（議事録はありません）

日朝国交正常化交渉は１９９２年１１月まで８回に亘り開催されますが　拉致問題や　核兵器問題で紛糾し　正常化交渉は失敗します

日朝貿易に関する韓国の未払い債務は８５０億円　北朝鮮の要求する戦争賠償は戦後４５年分も含め１００億ドル　最早落としどころの見えぬ状況となっています

読了後　拉致被害者救出の際　話題となった「ミスターX氏」とは　今も強いパイプを北朝鮮に持つ金丸信吾氏ではなかったかとの思いがよぎりました

三浦氏は　未整理だった資料を分析　正常化交渉の経緯を平易に纏めています　勉強になりました　山梨ふるさと文庫刊