葉室麟 逝去の前年頃に書かれた作品です

歴史小説と時代小説の差は 史実に忠実に書かれているのか 背景を近代に借りた創作なのか出るかと思います
文中に 川上彦斎言行録という書物についての言及がありますので 葉室さんは此れを基礎資料とされたのではないでしょうか
解説に 葉室さんは司馬史観に疑問を呈していたとあります
国家自衛戦争として日露戦争は肯定し その後の軍部の暴走によって日本は侵略戦争に踏み切り敗戦に至ったという考え方では総括が不充分であり 明治維新からの事をきちんと総括しなめれば 昭和敗戦の総括は出来ないと葉室さんは説き 私も同感の思いを持ちます
彦斎は 小柄で簿目秀麗 茶坊主からの出身とあります 海音寺潮五郎は 江戸期の茶坊主は家臣の中でも優秀な子弟を 薄禄の家計を扶助する目的で選抜されて命じられることがあり 薩摩藩では 大山綱良 有村俊斎 西郷従道等が茶道方に任用されていると書かれています
川上彦斎は 田中新兵衛 岡田以蔵 中村半次郎らによる天誅 更には新選組による浪人狩りとは異なる考えのもとに 多くの人を斬ったとされます
佐久間象山も彦斎に斬られた一人であり 勝海舟は「象山は将来に有用な逸材なので斬るべきではない」と云わせています 彦斎は自らの考えによって象山は斬ると言い切ります
この事件以降の川上彦斎の動向は この小説で初めて知りました 藤沢周平の雲居龍雄同様 貴重な歴史掘り起しであったと思います